東京高等裁判所 昭和30年(う)2068号 判決
被告人 井関忠雄
〔抄 録〕
原判決挙示の証拠を総合すれば被告人は倉田保男大津武と判示小松崎五郎方において家人を脅迫して金品を強取しようと共謀し、倉田、大津の両名が実行の任に当り被告人は屋外で見張をすること等を打ち合せて判示日時頃前記小松崎方附近に至り、被告人は同家に近接した納屋内に潜み、倉田、大津は同家屋内に押し入り、大津が就寝中の小松崎弘を判示の銃を示して脅迫し同人を後手に縛ろうとしていた際弘が隙を見て銃を奪い取り大津がこれをとり返そうとして両名組討ちとなつた為、被告人等三名は金品強取の目的を遂げるに至らないで相前後して逃走したが、右格闘により弘に判示のような傷害を与えたことが認められる。右に示したように被告人は倉田等と強盗を共謀の上、犯行現場に至り、見張をするとの打合せに基いて同家に近接する納屋の内に潜んでいたものであるから、右は共謀者の実行行為を介して謀議に基く犯罪実行の意思を実現したものと認められ、その実行行為者の行為に因る強盗致傷の結果についても共同正犯としてその責を負うべきものである。弁護人は被告人は現場には行つたが畏怖心にかられて納屋の荷車の下にかくれていたので、犯罪実行の意思を放棄していたものであるから中止犯であると主張するが、被告人が犯行の意思を放棄したと確認するに足る証拠はないのみならず、仮に共犯者の一人が自己の意思により犯行を中止したとしても他の者の実行を阻止せず放任しその者が犯行を遂げた場合には中止犯の規定を適用しえないものであり、また強盗致傷の罪は財物強取を遂げるに至らなかつた場合にも成立するものであるから、被告人の本件行為に対しては未遂(中止犯を含む)を以て論ずる余地はない訳である。従つて被告人に対してはその情状憫諒すべきものとして酌量減軽を行つても三年六月以上七年六月以下の懲役刑の範囲内で量刑をする外はない。以上の観点に立つて、本件記録を調査し被告人の性行、経歴、本件犯行の動機、犯情、犯行関与の程度、共犯者との刑の権衡等諸般の事情を考え合せると原審の量刑は所論のように重きに過ぎるものと認めることはできないから、論旨はこれを採用するを得ない。
(谷中 坂間 荒川)